宇野研究室
ゲノム・染色体進化学研究室
プロフィール: https://researchmap.jp/uno_y
http://pub2.db.tokushima-u.ac.jp/ERD/person/426621/profile-ja.html
研究テーマ:
生物はなぜ、いつ染色体の数や形が変化したのか?―脊椎動物を対象とした染色体とゲノムの比較研究―
ヒトは46本の染色体をもちますが、例えばカエルの仲間は20本、ニワトリやサメの仲間は非常に小さい染色体を多数含む70本以上の染色体をもつことが知られています。いずれも2万個程度の遺伝子をもつ脊椎動物でありながら、このように遺伝子が載っている染色体の「数」や「形」は生物種によって大きく異なります。こうした違いがいつ、どのようにして生じたのかという根本的な問いは、現在も未解明です。
染色体の数や構造の違いは、単なる生物種の分類上の特徴にとどまらず、個体の発生や生殖の過程に大きな影響を及ぼします。実際に、染色体の数が一致しないことで交配ができなかったり、細胞分裂が正常に進まず、がんや不妊症の原因となる場合もあります。こうした現象の背景にあるメカニズムを理解することは、進化の仕組みを明らかにするだけでなく、医学的な課題の解決にもつながります。
宇野研究室では多様な脊椎動物を対象に、独自に確立した培養細胞とそれを用いたFISH法(蛍光in situハイブリダイゼーション)などによる染色体解析、さらにバイオインフォマティクスによるゲノム解析を組み合わせ、この生物学的問いに挑んでいます。さらに染色体とゲノムの進化を理解することで、進化学やゲノミクスの基礎的知見を深めると同時に、医学的課題への応用にもつながる知見の創出を目指しています。

研究成果
染色体は、細胞が分裂している限られた時間にしか観察できないため、効率的な染色体解析には細胞分裂が活発な生体組織や培養細胞が必要です。マウスやヒトなどのモデル生物では、すでに多くの種類の培養細胞系が樹立されており、比較的容易に染色体解析を行うことができます。一方で、サメや両生類、爬虫類といった非モデル生物では、培養細胞の確立や染色体解析の技術がほとんど整備されておらず、研究を進めるうえで大きな障壁となっています。私たちの研究室では、これまでに無顎類(ヤツメウナギ)、軟骨魚類(イヌサメ、ジンベエザメなど)、両生類(アフリカツメカエル、イベリアトゲイモリなど)、爬虫類、鳥類、げっ歯類など多様な脊椎動物を対象に、独自の方法で培養細胞を確立し、それらを用いたFISH法などの染色体解析を実施してきました。現在も国内外の共同研究者と連携しながら、さまざまな脊椎動物種の染色体解析を進めています。

わたしたちは2016年にアメリカや日本などの国際共同研究のもと、2つの二倍体祖先種の交配による全ゲノム重複が独自に生じたアフリカツメガエルの全ゲノム情報の解読を報告し、この種におけるゲノム・染色体比較解析を行いました。その結果、2つの二倍体祖先種由来のゲノム(サブゲノムと呼称)のうち、一方のサブゲノムの全域で高頻度な染色体再配列や遺伝子消失、発現遺伝子量の低下が生じていたのに関わらず、もう一方のサブゲノムではそれらの構造変化がほとんど起きていないことを明らかにしました。全ゲノム重複は、4億年前の脊椎動物の共通祖先でも独自に生じそれにより、我々脊椎動物は独自の複雑な体構造や生物種の多様性が生じたと考えられています。おそらくその4億年前の全ゲノム重複でもアフリカツメガエルと同様に、サブゲノム非対称なゲノム進化が生じたのではないかと考えられています。しかしながらそれがいつ、なぜ生じたのかは不明なままです。現在はこれらを明らかにするための研究に取り組んでいます。

過去の卒業研究の内容
本研究室は2025年度に立ち上がったばかりで、過去の卒業研究の実績はまだありませんが、以下のような染色体解析(ウェットな実験系)とバイオインフォマティクス解析(ドライな情報学系)を組み合わせた研究を卒業研究として行う予定です。
・脊椎動物におけるゲノム・染色体進化に関する研究
・異質倍数体アフリカツメガエルのゲノム進化に関する研究
・脊椎動物における性決定・性染色体進化に関する研究