徳島大学 生物科学講座徳島大学理工学部 自然科学コース 生物科学分野
大学院創成科学研究科 理工学専攻 自然科学コース 生物科学講座

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渡部研究室

分子生物学研究室

渡部プロフィール: http://pub2.db.tokushima-u.ac.jp/ERD/person/82341/profile-ja.html
研究テーマ: 私の研究室ではアフリカツメガエル(Xenopus laevis)を用いて、受精したカエルの卵が細胞分裂を繰り返し、発生していく間に起こる細胞の分化や器官形成のしくみを、遺伝子クローニングなどの遺伝子工学の技術と、受精卵への顕微注射や胚操作などの発生学の技術を用いて研究しています。また、ゲノム編集技術を用いて初期胚に対する遺伝子操作を行い、ヒトのガンや遺伝病などの基礎研究も行っています。

アフリカツメガエル初期胚を用いた実験技術の例

1. 受精卵への顕微注射(マイクロインジェクション)

極小のガラス針を用いてDNAやRNAを受精卵へ顕微注射し、初期胚に生じた表現型(この場合は頭部の重複)を観察することにより、遺伝子の機能を探ることができます。外部形態だけではなく、初期胚の中で生じているさまざまな変化も生化学的に調べます。

2. アニマルキャップアッセイ

受精卵は、受精後5~6時間で胞胚と呼ばれる時期に達します。胞胚期の動物極の細胞(予定外胚葉;アニマルキャップ)は、将来、表皮か神経のどちらかへ分化しますが、この時期にはまだ分化の運命は決まっていません。そこで、アニマルキャップを初期胚から切り出し、培地に試薬を加えたりすることでさまざまな組織や器官へ分化を誘導することが可能です。アニマルキャップは、いわゆる「万能細胞」と同じような多能性を持っており、任意の遺伝子やタンパク質の分化誘導能を調べるアッセイ系として利用することができます

3.ゲノム編集(Crispr/Cas9法)による遺伝子のノックアウト

2016年に発表されたアフリカツメガエルのゲノム情報と、2020年にノーベル賞に輝いたゲノム編集技術(Crispr/Cas9法)を組み合わせて、ガンや遺伝病に関連する遺伝子をカエルの卵でノックアウトします。遺伝子がノックアウトされたことで初期胚に現れた効果を調べ、遺伝子と表現型(ガンなど)の関係を探ります。

現在の研究テーマ

前述の実験技術等を用いて、下記のようなテーマで研究を行っています。

細胞分裂周期制御に関わる因子の研究

細胞が分裂するときにはCDK/サイクリンというタンパク質の複合体が重要な役割を果たしています。また、この複合体の活性を制御する因子が同定されています。Crispr/Cas9法を用いてこれらの因子をノックアウトして、アフリカツメガエル初期胚の細胞分裂や細胞分化に対する影響を調べています。この研究は九州大学、広島大学等との共同研究で進めています。

ヒトのガンに関わる遺伝子の研究

WT1遺伝子はヒトのウィルムス腫瘍(小児腎ガン)のガン抑制遺伝子として発見され、腎臓形成に重要な機能を持つことが知られています。私たちは、WT1遺伝子のアフリカツメガエル初期胚の腎臓(前腎)形成における機能を、ゲノム編集法、mRNAの顕微注射等で調べています(https://www.mdpi.com/2221-3759/10/4/46)。 Nkx3-1遺伝子は、ヒトの前立腺ガンの抑制遺伝子として知られています。カエルにもヒトと同じNkx3-1遺伝子が存在しますが、カエルに前立腺はありません。私たちは、この遺伝子がアフリカツメガエル初期胚において興味深い機能を持つことを示唆する実験結果を得ており、それを検証しています。

イベリアトゲイモリを用いた研究

まだ始めたばかりです。イモリの研究に興味を持った4年生が一人で研究を行っています。この研究室で、イベリアトゲイモリの遺伝子操作が自由に行えるようになることを目指しています。

最近の研究成果

2016年にアメリカや日本などの国際共同研究のもと、アフリカツメガエルの全ゲノム情報の解読が発表されました(https://www.tokushima-u.ac.jp/docs/2016101800027.html)。私はこのプロジェクトに参加し、主に染色体の逆位構造や匂いを感じる細胞膜上の受容体の研究を担当しました。この研究から得られた成果を利用して、2017年にアフリカツメガエルの数多くの転写因子の構造や発現パターンを詳細に解析した論文が発表されました(https://www.tokushima-u.ac.jp/docs/2017071000042.html)。ヒトとアフリカツメガエルでは遺伝子の約80%が共通ですが、転写因子をコードする遺伝子の場合は95%以上が共通でした。転写因子の異常はヒトのガンや遺伝病に関連していることが知られています。この結果は、アフリカツメガエルを用いた転写因子の研究が、ヒトの疾患研究へ応用できる可能性を示唆しました。 生命科学の研究では、特定の遺伝子の機能を調べる方法として、その遺伝子の機能を抑制し、その結果生じた細胞や個体の表現型を形態学的・生化学的に調べることで、もとの遺伝子の機能を推定する方法が行われます。遺伝子機能の抑制実験として、多くの生物でRNA干渉(RNAi)法が利用されています。これは機能抑制をしたい遺伝子のmRNAに対し、同じ配列を持つ二本鎖のRNAを細胞に導入することで、もとのmRNAの分解を誘導するというものです。しかしアフリカツメガエルではRNAi法が上手く働かず、ほとんど利用されていませんでした。私たちは二本鎖RNAをあらかじめ短く切断しておくことでアフリカツメガエル初期胚でもRNAi法が効率的に機能することを見出し、2021年に発表しました(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/dgd.12762)。この論文は、共同研究ではなく私の研究室の学生・大学院生の成果のみをまとめたもので、私にとっては思い出の深いものです。

研究室について

この研究室は、理工学部・理工学科・自然科学コース・生物科学講座の4研究室のうちの一つです。理工学部は、平成28年(2016年)4月に発足した比較的新しい学部です(実は私は、理工学部は併任教員であり、教養教育院という組織に所属しています)。理工学部が発足してから、令和元年に初めての学生(4年生)が研究室に入ってきました。以来、令和4年までに8名の学生が私の研究室に所属し、卒業後は6名が大学院へ進学(5名は私の研究室、1名は他の研究室)、1名が専門学校へ進学、1名が就職の予定です。 卒業研究のテーマの例をいくつか挙げます(少し古いテーマも入っています)。
  • ウィルムス腫瘍原因遺伝子WT1のアフリカツメガエル初期発生における機能解析
  • アフリカツメガエルNk3遺伝子群の発現パターンの解析
  • アフリカツメガエルから新しいKLFファミリー遺伝子のクローニングと初期発生における機能解析
  • アフリカツメガエル初期胚に対するビタミンAの影響
理工学部の大学院(創成科学研究科)が令和2年(2020年)に発足してからは、令和4年度までに5名の博士課程前期課程(修士課程)と1名の博士課程後期課程の大学院生が在籍しました。大学院(博士前期課程)を修了した3名は、食品会社、臨床検査会社へ1名ずつ専門職として就職し、この研究室の博士後期課程へ1名進学しています。 この研究室は、教員は私だけで、学生・大学院生が数人という小さな研究室です。

研究室の生き物たち

研究室ではカエルだけでなくいろいろな生き物を飼育しています。私は、高校との連携講座や高校の課題研究のお手伝いをすることも多く(https://www.tokushima-u.ac.jp/docs/33713.html)、そのために飼育している生物もいます。基本的に私は生き物が好きなので(特に小さな生き物)、毎日楽しく眺めています。生き物の世話は、基本的に私が行っています。

アフリカツメガエル

研究室の主役?です。オス・メス合わせて150匹くらい飼育しています。飼育が非常に容易で、生殖腺刺激ホルモンを注射することにより1年中採卵することができます。

ネッタイツメガエル

アフリカツメガエルの近縁種のカエルです。アフリカツメガエルよりずいぶん小さく感じます。広島大学より分与していただきました。成長が早く、受精から性成熟まで1年もかかりません。

イベリアトゲイモリ

広島大学より分与していただきました。かなり大きなイモリで、驚異的な再生能力を持っており、再生現象の研究に使われます。

アカハライモリ

日本産のイモリです。腹部が赤いのが特徴です。県内の高校生からいただきました。

リュウキュウナミウズムシ(プラナリア)

北海道大学の先生よりいただきました。体長は大きな個体で10mmくらいです。体を切り刻んでも、各々の断片が一匹のプラナリアに戻るという凄い再生能力を持っています。課題研究の材料として高校生へ提供をしています。

キイロショウジョウバエ

遺伝子学で有名な生物です。同じ生物学講座の先生よりいただきました。左がオスで右がメスです。私はアメリカで最初のポスドクでこのハエを使った研究を行っていました。高校生の課題研究のクモの餌として飼育を始めました。

オオミジンコ

徳島県の教育センターの先生よりいただきました。1.5mmくらいです。左は受精卵(耐久卵)を持つ個体で、右は単体為発生の個体です。環境が生育に良い場合は単体為発生でメスだけで繁殖し、環境が悪化するとオスが出現してメスと後尾をして受精卵を作ります。

線虫

有名な発生遺伝子学のモデルの生物です。体長は1mm程度です。九州大学の先生よりいただきました。高校生の課題研究用に飼育しています。寒天培地の上をサインカーブを描きながら動いてる様子を顕微鏡で眺めていると、時間が経つのを忘れます。
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